就労

特別支援学校卒業後に知的障害のある方が選ぶ進路先と進路選択のポイントについて

知的障害のある方の18歳以降の進路先で悩ましいのが、働くこと・働くタイミングなのではないでしょうか。高校を卒業してすぐに就労する場合は、企業、各省庁・自治体、福祉的就労が進路先となります。就労をしない場合は、生活面の自立を目指す場所、就労のための訓練所、進学という選択肢もあります。

特別支援学校卒業後の就労者の割合は、年々増加傾向にあります。その一方で都市部では就労移行支援事業所の増加や進学の選択肢が増えたことで、進路先の多様化も徐々に進んでいます。

ここではまず始めに、知的障害のある方の18歳以降の進路先について整理をします。その後、進路先を選ぶにあたり大切なことを「本人の意思」という文脈で記載していきます。

1.知的障害のある方の進路先についての整理

(1)特別支援学校とは

特別支援学校は障害のある方が通う学校で「幼稚部」「小学部」「中学部」「高等部」があります。平成19年の学校教育法の改正により、養護学校、盲学校、聾学校を合わせて特別支援学校と呼ぶことになりました。このような経緯もあり、現在も学校名が養護学校、盲学校、聾学校となっていることもあります。

「特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。」
引用元:「学校教育法第72条」

多くの知的障害のある方が特別支援学校に通い、その後の進路を決めています。以下では、特別支援学校高等部に通う知的障害の方の進路先についてまとめていきます。

(2)特別支援学校高等部(知的障害)卒業後の進路先の整理

特別支援学校後頭部 知的障害者の卒業後の状況と就職率の推移


*統計の中の用語の定義
【進学者】:専攻科・大学学部・短期大学本科及び大学・短期大学の通信教育部・別科等
【教育訓練期間等入学者】:専修学校、各種学校、障害者職業能力開発校等
【社会福祉施設等入所・通所者】:児童福祉施設、障害者支援施設等、更生施設、授産施設、医療機関


平成29年度に特別支援学校高等部(以下、特支)を卒業した知的障害のある方の数は、全国で18321人です。その内、卒業後の進路先を高順に並べると、社会福祉施設等の入居・通所者11262人、就職者6029人、その他688人、教育訓練機関等276人、進学者66人です。

進学した方の内、大学に進んだ者は2名、専攻科に進んだ者は64名です。専攻科とは、知的・発達障害のある方が特支卒業後も引き続き教育を受けられる場を指しています。知的障害のある方が卒業後に進学を選択するケースは非常にめずらしいことです。それは、受け入れ先がそもそもすくない、という現状の影響だと考えられます。

「知的障害のある子が、特別支援学校の高等部を終えて進学する率は、わずか0.5%です。毎年、50%以上の人たちが大学へ進学することを思うと、その格差は100倍です。なぜなのか? 一つには、受け入れ先が少ないこと。高等部などに設置される「専攻科」が、主にその役割を担っていますが、全国で知的障害者を受け入れている専攻科は、たった9校しかありません。」
引用元:日本福祉大学ホームページ

特支を卒業した知的障害のある方の6割が社会福祉施設等に入所あるいは通所しています。
進路先として考えられる主な社会福祉施設は以下の通りです。

療養介護
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
医療を要する障害者であって常時介護を要するものにつき、主として昼間に医療機関で機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活上の世話の供与を行う。
生活介護
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
常時介護を要する障害者につき、主として昼間、施設において入浴、排せつ又は食事の介護、創作的活動又は生産活動の機会の提供を行う。
自立訓練(生活訓練)
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
知的障害者・精神障害者が自立した日常生活又は社会生活を営むことかのできるよう、一定期間、生活能力の向上のために必要な訓練等を行う。
就労移行支援
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
一般企業等への就労を希望する障害者に、生産活動その他の活動の機会の提供を通して、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う。
就労継続支援(A型)
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して行う雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う。
就労継続支援(B型)
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を行う。
障害者支援施設
(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)
施設に入所する障害者に、夜間や休日、入浴、排せつ又は食事の介護等を行う。

引用元:社会福祉施設等の概要(一部修正)

日常の生活面がある程度自立しており、なおかつ企業就労を目指している場合、就労移行支援事業所を利用して2年の間で企業就労を目指すか、A型やB型で勤務しながら企業就労目指す方法もあります。

特支を卒業した知的障害のある方のうち、就職した者の割合は3割程度です。就職者に関して過去15年の経過をたどると、平成15年は22%でしたが、その後、年々少しずつ上昇して行き、平成29年には32%まで上がりました。その背景には、国や東京都が推進する施策が影響していると考えられます。

3割という就職者の数は、あくまでも全国の特支を卒業した知的障害のある方の値です。就職者に関して、全国と東京都のパーセンテージを比較すると数値に多少の開きがあるのがわかります。

東京都と全国の進路状況調査の比較

全国と東京都では、同じ統計指標を使用していないので、一概に比較はできませんが、就職者(就業者)に関しては、全国の場合は全体の32%、東京の場合は49%という結果が出ています。働く受け皿が多い都市部では、必然的に就職者数が上がる傾向があると考えられます。

2.特別支援学校高等部卒業後の進路先において就職者数が増え続ける背景

(1)知的障害のある方の就職率が年々上がる要因

全国の知的障害のある方について、就職者の推移が平成15年から現在に至るまでに上昇傾向(平成15年【22.4%】→平成29年【32.9%】)にあるのは、様々な要因が重なり合っていることが考えられます。その要因として考えられるのは以下の3点です。

・障害者に関する法整備が進んできた
・受け皿となる企業側のダイバーシティ等の観点が進み、障害のある方を積極的に雇用する動きが目立ってきた
・以前に比べ就労支援機関の体制が充実してきた

加えて、障害者基本法を根拠とする障害者基本計画では、障害のある方の雇用の施策、そのための学校教育について以下の内容が言及されています。

「障害者が地域で自立した生活を送るためには就労が重要であり、働く意欲のある障害者がその適性に応じて能力を十分に発揮することができるよう、一般就労を希望する者にはできる限り一般就労ができるように、一般就労が困難である者には就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように総合的な支援を推進する。あわせて、年金等の支給,経済的負担の軽減等により経済的自立を支援する」
引用元:「障害者基本計画」

障害者基本計画では、自立や就労といった言葉が強調されています。その文脈も特支を卒業した知的障害のある方の就職率が年々上がっていることに影響を及ぼしている考えられます。以下ではその内容をもう少し丁寧に記載していきます。

(2)自立や就労に対する東京都の取り組み

自立や就労を意識している障害者基本計画に加えて、東京都も特別支援教育の推進を目指してきました。その代表的なものが東京都特別支援教育推進計画です。経緯としては、平成14年に東京都心身障害教育改善検討委員会の設置、平成15年に同委員会より「これからの東京都の特別支援教育の在り方について(最終報告)」を報告し、計画が策定されました。

この計画の基本的な方向では、「軽度の知的障害の生徒を対象とした高等部の設置」と「知的障害が軽い生徒を対象に就労・進学に向けた教育の実施」が明記されています。この文脈の中で特別支援学校学習指導要領においても職業教育の充実が示されています。このような取り組みも後押しして、東京都の知的障害のある方の就労者数に影響を及ぼしていると考えられます。

3.進路先の選択のポイント

(1)本人(知的障害のあるの方)の意思の尊重

本人の意思と進路先の選択

進路先の決定は、人生の大きな選択の一つです。その選択を決定する上で大切なのが「本人の意思の尊重」です。本人の意思を汲み取りにくい場合は、時間をかけて丁寧に確認していく必要があります。

例えば、働くことをまだ理解していない人、まだ働く必要性を感じていない人、意にそぐわない形で働く事になった人は、進路先で長続きするのは難しいでしょう。一般論ですが長続きしない要因はいくつか考えられます。

・進路選択において本人の意思が反映されていない(本人の働く準備がまだ整っていない)
・「働くこと」と「働き続けること」のハードルは別物であり、今までにそのアプローチがうまくなされなかった
・企業とのマッチングがうまく行かなかった
・企業側の受けいれ体制がまだ整っていなかった

進路先の決定において、もう一つ大切なのが、本人の意思を尊重する中で周囲の人が「意思決定の誘導をしない」ことです。進路先の選択をする際に提示されたものが恣意的に構成されていた場合、本人はその事実に気がつきません。当然ながら、その提示されたものの中からしか選択ができなくなります。こうなってしまうと、ある種、選択の誘導ができてしまいます。

ただし、多種多様な選択肢をいろいろ提示すればいい、その中から選んでもらえばいい、というわけにもいきません。選択肢が多すぎると本人が混乱し、わからなくなってしまう可能性があるので、周囲の人がある程度絞る必要はあるでしょう。その絞り込みをした進路先の種類は、本当に本人のためのもので、客観的なアセスメントを基に構成された選択肢なのか、よく考える必要があります。

意思決定支援について

上記では本人の意思が大切であると強調しました。この意思の大切さは、意思決定支援の文脈でよく語られます。「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2013年6月号の中で柴田洋弥は意思決定支援について以下のように言及している。

重い知的障害のある人にも、その人なりの意思はある。かすかに表現された意思を支援者がくみ取り、それに応えることによって、ますます明確に意思を表現するようになる。また、文字が分かる人、カード・絵・写真の方が理解しやすい人、実物を見て理解する人など、その人の理解力や理解の仕方に応じて情報提供することも重要である。本人自身に不利益を及ぼす決定を「本人が決めたこと」と放置するのは虐待である。本人にとってよりよい意思決定を本人が納得してできるよう支援することが重要。「説得」ではなく「納得」を!このとき「失敗を通じて学ぶ」経験も大切だが、重度自閉症者の場合は成功体験を重ねるよう配慮を要する。「意思形成支援」は、発達期からの障害者に必要な「ハビリテーション」でもある。
引用元:「ノーマライゼーション 障害者の福祉」2013年6月号(一部修正)

本人の意思表示は、生活をする中で、どんな場面でも大切になり、中心的存在にならなければなりません。その意思を特に求められるのが就職をする時と福祉サービスを利用する時です。現在は、そのような法体制の基で障害者雇用があり、福祉サービスが存在しています。

(2)進路決定後に求められる意思表示の場面

企業から求められる配慮事項

就職をする際には、企業側から配慮事項の提示を求められます。直接「何か配慮することはありますか?」と聞かれる場合もあれば「どうすれば働きやすくなりますか?」「働いてもらう時に会社側が何か気をつけることはありますか?」と聞かれる場合もあります。なぜ会社側がこのようなことを聞くのかというと、その背景には、共生社会の実現や差別解消の考え方が根底にあるからです。

合理的配慮に対する考え方のステップ

障害のある人は、社会の中にあるバリアによって生活しづらい場合があります。この法律では、役所や事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)を求めています。
引用元:内閣府「合理的配慮」を知っていますか?

合理的配慮の本質は障害に対する配慮ではなく、本人の困りごとに対する配慮です。しっかりと雇用管理がなされていれば、この本人の困りごと(配慮事項)の確認は定期的に行われます。なぜならば、入社前に想定していた困りごとと、入社後の困りごとと、しばらく働いてからの困りごとは違うからです。

その困りごとに対して企業は対応をします。しかし、その対応は「義務」ではなく「努力義務」です。企業側は、本人の要望に対して、「できること」と「できないこと」があるでしょう。そのため、どうすればお互いが納得して仕事を進められるのかを話し合う(調整)必要があります。

そもそも配慮の意味は「してあげるもの(企業側)」「してもらうもの(本人)」ではありません。配慮は、「調整」という意味合いです。その調整をするためには、兎にも角にも、まず本人の意思が大切になります。前述しましたが、支援機関がついていれば意思表明のサポートをしてくれて、企業の担当者と一緒になって困りごとの解消のために働きかけをしてくれます。

合理的配慮の事例を知りたい方は以下のサイトを参考にして下さい。
内閣府 ホームページ「合理的配慮の提供等事例集」

社会福祉施設等が探りたい本人のニーズ

卒業後の進路で社会福祉施設等に通所・入所する場合、その施設・事業所では、個別支援計画を作成します。個別支援計画とは、事業所の管理者が利用する方のために作成する支援の計画書です。障害福祉サービスを利用する際に必要になります。個別支援計画を作成し、計画に沿って支援を行います。簡単に言えば、「あなたのニーズ(希望、要求)を大切にしながら、支援者が様々な可能性や今までの経験を基にこんな支援をしていきます」ということを書き記したものです。

そして、一定の時期が来ると、モニタリングを実施して、支援の状況を見直し、必要に応じて支援内容を調整していきます。利用者のニーズを基に支援計画を作成して、その支援計画がしっかり運用されているか点検するのがモニタリングです。モニタリングの際は管理者と利用者が一緒に振り返りをします。

意思の表示は、福祉サービスを利用する場合にも求められます。福祉機関の職員は、意思の表示を汲み取ることに長けているかもしれませんが、本人からの発信も重要になります。その意思表示が明確であり、正確であればあるほど、生活の質は向上していくでしょう。

ただし、障害等により意思表示が苦手な方もいるのもたしかです。家庭でできることとしては、焦らずに微かに出る本人の意思表示のサインや癖・習慣を把握すること、それを支援機関等に伝えることが重要になるでしょう。また、意思表示のできる環境やタイミングを把握しておくことも大切です。そのためには、日々の生活の中で「意思表示」と「選択をすること」の癖をつけ、それを周囲の人がよく観察することが大切になります。

まとめ

今回、特支卒業後の進路について、二つの前提があることがわかりました。一つは、特支卒業後(知的障害のある方)の就職率3割は少ない、という前提です。この前提には、過去に知的障害のある方の就職率が高かった(55年は57%、60年は37%、2年は40%)経緯や早期就職が早期自立に直結すると考えられていることが挙げられます。

もう一つは、18歳で就職するにはまだ早い、という前提です。一般の方の場合、ほとんどの方が進学をします。進学をすれば初めて就職するのはだいたい20歳か22歳の時です。

一概にどちらの前提が正しいとは言えません。しかし、当人の状態を確認しながら、家族としてどちらの前提に立っているのか、ということを話し合う必要はあるでしょう。

進路決定の時期には、本人の意思を大切にして、進路先を決めていくことをお勧めします。この「本人の意思」は、現在の法律下で学校生活でも就職してからも、福祉サービスを利用するにしろ、求められるものです。周囲が本人の意思を「代行決定」するのではなく、意思表示の仕方を育む立場・汲み取る立場、サポートをする立場をとっていれば、誰のためでもない、本人にとっての最適な進路先が見えてくるはずです。

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この記事を書いた人

田中 佑樹(たなかゆうき)
大学卒業後、2008年に貿易会社に勤務。その後、2012年に一般社団法人障害者就労支援協会(就労移行支援事業所)で勤務を開始。障害のある方への就労支援をする傍ら、障害者雇用を始めようとしている企業に対して助言・サポートの実施。就労支援の現場では、知的・精神・発達・高次脳の方を担当し、企業就労に繋げる。就職後も当事者の家族や各支援機関との連携を大切にしながら、中長期の定着支援を実施。

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